NEXUS 情報の人類史 上
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『NEXUS 情報の人類史(上)人間のネットワーク』ユヴァル・ノア・ハラリ・著 河出書房新社
かつて、ナチス・ドイツが台頭してきた頃、S・I・ハヤカワ氏がその脅威に対抗すべく『思考と行動における言語』という名著を出し、全体主義への警鐘を鳴らしましたが、本書は、今まさにわれわれが直面しているポピュリズムへの脅威、そしてAI革命による脅威に警鐘を鳴らす内容。
この上巻の第1章で著者は、そもそも情報とは何かについて論じますが、そこでは、われわれが社会を作る上で、重要な真実が述べられています。それは、<情報とは、さまざまな点をつなげてネットワークにして、新しい現実を創り出すものだ>ということ。つまり、情報とは必ずしも現実を表すものではなく、結びつき(=NEXUS)という要素を含んだものだということです。
第2章では、この結びつきを強める手段としての「物語」について考察されますが、面白いのは、物語にとどまらず、第3章で現実の社会を動かすための手段として、「文書」とそれを支える官僚制が論じられていること。大衆は官僚制を叩きたがりますが、ここではなぜわれわれの社会が官僚制を必要としているのかが詳しく述べられています。
大国が官僚制なしに成り立たなかったのはなぜか、「人類」の視点から語られるのが、いかにも著者らしいですね。
そして第4章では、「誤り」と題して、組織や国家が間違いに対して、どう対応しうるか、歴史上の教訓と人間の知恵が綴られています。
そして上巻の最終章、第5章では、「決定」と題して民主主義と全体主義の概史が語られ、それぞれの長所と短所がまとめられています。
4章、5章は、現在のアメリカ、ロシア、中国、イスラエル、日本の政治を思わせる内容で、今われわれが直面している脅威の根本を考えさせてくれる、教訓に満ちた内容だと思います。
引用
もし二一世紀の全体主義のネットワークが世界征服に成功すれば、そのネットワークを動かすのは人間の独裁者ではなく人間以外の知能かもしれない
ガザにオスマン帝国の兵士が一万人いるとだけ言うときには、そのなかには歴戦の古参兵や青二才の新兵がいるのかどうかを具体的に述べることは怠っている
あらゆる生命体が、遺伝子の「エラー」のおかげで存在している。進化の奇跡が可能なのは、DNAが既存の現実を表していないからこそであり、DNAは新しい現実を創り出す
石器時代からシリコン時代までの情報の歴史を眺めてみると、接続性は着実に上がっているものの、それに伴って真実性と知恵が増す様子は見られない
もともと虚構には真実よりも有利な点が二つある。第一に、虚構は好きなだけ単純にできるのに対して、真実はもっと複雑になりがちだ。(中略)第二に、真実はしばしば不快で不穏であり、それをもっと快く気分の良いものにしようとしたら、もう真実ではなくなってしまう
人間の情報ネットワークはどれも、生き延びて栄えるには、真実を発見し、しかも秩序を生み出すという、二つのことを同時にする必要がある
リストと物語は、互いに補い合う。国民神話は納税記録を正当化でき、納税記録は野心的な物語を具体的な学校や病院に変える助けになる
人間が創り出せる種類の共同主観的現実には脳の容量という限度があった。人間は、脳が記憶できない共同主観的現実は創出できなかった。ところがこの限界は、文書を書くことによって乗り越えることができた
同じ聖典の写本が多数あれば、内容に手が加えられるのを防ぐことができた
印刷と魔女狩りの歴史が示しているように、規制されていない情報市場のおかげで、人々は自らの誤りに気づき、それをそれを正すようになるとはかぎらない。なぜなら、そのような市場は、おそらく真実よりも、憤慨や憎悪を煽って攻撃的な言動に走らせるようなコンテンツを優先させるからだ
強権的な指導者が民主制を切り崩すのに使う最もありふれた方法は、自己修正メカニズムを一つ、また一つと攻撃するというものであり、手始めに標的とされるのは、裁判所とメディアであることが多い
◆目次◆
プロローグ
第1部 人間のネットワーク
第1章 情報とは何か?
第2章 物語
第3章 文書
第4章 誤り
第5章 決定
原註
索引